2019年07月01日 12:27

Photo by Kei Tsuji
世の中にはいろいろな全日本選手権がありますが、今回は自転車ロードレース女子のエリート(トップカテゴリー)のチームカーとしてレースの間中、選手に不測の事態が起きてもサポートできるように帯同しました。
参考:チームカーについてはこのヨンパチブログでも何度か取り上げています。過去記事をどうぞ。
しかも、そのサポートする選手はリオ五輪日本代表、全日本選手権ロードで4度のチャンピオン(3連覇中)、現在イタリアのプロツアーチーム「アレ・チポッリーニ」に所属し、女子で唯一自転車ロードレースの本場で戦う絶対王者「與那嶺恵理」選手です。それでいて今回の全日本選手権の結果は来年の東京五輪代表選考に大きく影響するとあって、レース会場は独特の重い空気が漂っていました。
参考:與那嶺恵理オフィシャルウエブサイト
レースは富士スピードウェイの本コースと周辺の管理道路などを使った周回レース。走行距離は140km(10.8km×13 周)で時間にして4時間の長丁場となります。クルマにはチーム内での連絡に使う無線機、主催者から提供される情報をキャッチするラジオツール(無線受信機)、選手への補給、ホイールセット、スペアバイクなどを積んでいます。今回は私がドライバーでチーム監督を助手席に乗せて走りました。

ピットとフィードゾーン、チームカーは無線で連絡を取り合う。(選手への無線通信は禁止)
レース当日は雨。與那嶺選手にとっては天候の厳しい欧州の経験があり、フィジカル的にも精神的にも他の選手に比べてアドバンテージになる材料ではあります。しかし、雨によるスリッピーな路面での落車やパンクトラブルリスクが高まるのも事実。サポートカーの動きがレース結果に影響を及ぼす可能性もあり、私も最近味わっていなかった緊張感に包まれていました。
スタートしてしばらくはひとつの塊になった選手の後ろにレースコミッセール、他のチームカーと隊列を組んで走ります。事前にコース図は確認していますが、コースを完全に把握しているわけではないので、この間にコースの危険なポイントなどを確認しました。
レース序盤に先頭集団が形成されると、遅れてきた選手をパスしながら前に出ます。周りの車のペースにそのまま合わせるのは、ダッツンの細いタイヤとプアーな足回りでは危険。2速と3速の間を行ったり来たりしながら、必死にトラクションを感じつつ走らせました。

Photo by Kei Tsuji
ゴールまで100キロを残して、まだまだ序盤でしたが、與那嶺選手がアタック。他の選手をいとも簡単に振り切ってしまいました。そうなるとダッツンもメイン集団を交わして前へ行かなければなりません。
めっちゃGTロマンしてました。 pic.twitter.com/jCYNYN0XBD
— Satoshi Oda (@sa_0da) June 29, 2019
隊列を組んでいるときはKEEP LEFTでしたが、それではアタックした與那嶺選手には追いつきません。コース幅をそれなりにつかって安全マージンは十分に取りつつ前を追います。それでも追いつくのに結構な時間かかりました。

Photo by Kei Tsuji
ここから長いひとり旅。選手が手を上げてチームカーを呼び、コミッセールが許可を下せば、走る選手に横付けしてコミュニケーションをとったり、補給を渡すことができます。2度行いましたが、最初は上手く寄せきれずにストレスを与えてしまいました。

Photo by Kei Tsuji
自転車最大の敵は空気抵抗。単独になれば空気抵抗を受け続け走ることになるのでペースを維持するのは大変です。後続の集団は敵チーム同士でも共通の利益「先頭に追いつく」によって協調し空気抵抗を分け合い追いかけてくれば、当然集団の方が省エネで走ることができて有利になります。しかし、與那嶺選手はそれさえも許さない圧倒的な実力差でその差を3分以上引き離します。これはパンクトラブルがあっても十分なサポート時間が許され少し楽になりました。フロントガラスに取り付けたスマートフォンでLIVE中継をしていたので、画角に選手が入るようにしながら追走。
4時間を超えてラスト1周。悪天候の中沿道で声援を送ってくれたファンの方達にクラクションで応えつつ、やっとサポートカードライブの長い旅から解放されると思った瞬間。残り数百メートルでバイクトラブル発生。しかもサポートカーはピットへ退避しなければいけない直前でした。状況を確認したいが、コミッセールからはピットに入れと指示される・・・なんとか自走できる状態だとわかり、そのままゴールへ。いやぁ、すんなり終わらないものですね。

見事に與那嶺選手は5度目の全日本タイトルを手中に収めました。終わってみれば下馬評通り圧倒的な勝利でしたが、だからと言ってそれが確約されているわけではありません。與那嶺選手も語っている通り全日本は勝ちに来るレースでそれ以下は価値がないと断言しています。そこに挑むプレッシャーはどんなものなのか想像もできません。そんな人生を掛けた勝負の場にダッツンで協力できたこと誇りに思います。

Team ERI
そして、選手の活躍の裏で地道にひとつひとつ準備を重ねるTEAMの存在があることも知ることができました。選手が走り、私と監督がチームカーを走らせ、コース脇の至る所で状況を確認してフィードバックする人、フィードエリアで補給を準備する人、タイムギャップのチェックや不測の事態に備える人、選手のマッサージャーや身の回りの世話をする人・・・與那嶺選手の力も圧倒的でしたが、チームの準備についても圧倒的だったんじゃないかな。20年以上前に自動車レースメカとして改修前の富士スピードウェイに通っていた頃の感覚を懐かしく思い出しながら、帰路につきました。凄い経験をしちゃったな。この日、めちゃくちゃ疲れていたけど、興奮して眠れなかったのは言うまでもありません。

「一緒に走ってくれてありがとう」とこんな貴重なジャージをサプライズプレゼントしてくれました
東京五輪で会いましょう!
Jr
アタックが決まったシーン
【速報動画】全日本ロード 女子エリートは、與那嶺恵理が圧巻の独走優勝で4連覇、通算5勝目
— シクロチャンネル CYCLOCHANNE (@CYCLOCHANNEL) June 29, 2019
【女子エリート+女子U23】
優勝 與那嶺恵理(Alé Cipollini)
2位 金子広美(イナーメ信濃山形)+03:47
3位 樫木祥子(team illuminate)
※女子U23
優勝 梶原 悠未(筑波大学)4:32:21#全日本ロード pic.twitter.com/zokoR5aNZr
與那嶺恵理が圧倒的な力を見せつけ全日本4連覇・5度目の女王に(シクロワイアード)
【詳報】與那嶺恵理が前半から独走の圧勝劇でV5 2位に金子広美が入り五輪に近づく(サンスポ・サイクリスト)

テレビ朝日の取材を受ける與那嶺選手
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